障害年金申請の相談・申請業務行っていると、‘なぜダメなのか’‘初診日が取れてよかった’など、もっと依頼者に有利な取り扱いになるように改定されないものか・・と思うことがあります。
厚生労働省社会保険審議会の年金部会において一定の課題が議論され、整理されています。以下に記しておきたいと思います。
<初診日にかかる論点>
障害厚生年金において、保険事故の発生時点を初診日とすることを維持しつつ、「延長保護」や「長期要件」を認めるべきかどうか、という論点です。
障害年金の受給権を得るためには、保険事故時点において一定の保険料納付要件を満たしていることが必要です。
障害年金制度においては、この保険事故の発生時点を、障害の原因となった傷病について初めて医師等の診察を受けた日である初診日に置いています。
そして被保険者期間中に発生した保険事故に対して、初診日における加入制度から給付を受けることになっています。
→ 障害基礎年金か障害厚生年金のどちらが適用されるかは、障害の原因となった病気やけがの初診日に国民年金か厚生年金か、いずれの被保険者であったかで決まり、受給できる障害年金に差が生じる場合がある。
たとえば、けがや精神疾患などにより退職してから障害年金を申請した場合に、初診日によって障害厚生年金を受給できず、また障害になった後に就労しても障害基礎年金を受給することになる。障害厚生年金の方が給付額多く、より軽い障害でも給付が受けられ、障害手当金(一時金)を受給できる場合があるなどの差がある。
稼得能力の低下や喪失が到来した者への所得保障という障害給付の目的から同じ枠組みである中で、退職後あまり期間が経過していない者であれば障害厚生年金の給付の対象にすることも検討の余地がある、との意見がある。
→ 転職の増加・働き方の多様化を踏まえ、初診日が休職・失業中にあったとしても厚生年金保険への任意継続加入の創設も検討すべきとの意見がある一方、
障害厚生年金において
・延長保護(※被保険者資格喪失の一定期間内であれば、被保険者資格喪失後の保険事故発生も給付対象にすること)と
・長期要件(※厚生年金保険料の納付済期間が一定以上であれば被保険者資格喪失後の保険事故発生も給付対象にすること)の
両方を認めてもよいのではないか、延長保護は、諸外国で実際に行われている制度である、
とする意見がある。
<障害年金受給者の国民年金保険料免除の取り扱いについて>
障害年金受給者の法定免除期間について、保険料納付済期間と同じ扱いにするべきか、どうか、という論点です。
現行、法定免除期間については、保険料納付済期間に算入されない。
このため障害等級が2級以上の受給者の場合、国民年金保険料について法定免除となっていて納付することを要しないが、障害の状態が65歳前に軽減し、障害基礎年金の支給が停止された場合、65歳以降は法定免除期間について保険料納付期間に算入されず、減額された老齢基礎年金を受給することになる。
障害年金受給者にかかる免除期間のほか、日本国内に住むすべての方は、20歳になった時から国民年金の被保険者となり、保険料の納付が義務づけられているが、学生には申請により在学中の保険料納付が猶予される「学生納付特例制度」が設けられている。ただし、この特例制度の手続をせず保険料を納めていなかった場合、障害年金は受給できないが、その手続きをしていないことで受給できなくなることについては、見直しを検討すべき、との意見がある。
<障害基礎年金2級の年金額にかかる論点>
障害基礎年金2級の年金額の水準が老齢基礎年金の満額(40年の拠出の場合)で設定されている。そこで
・障害基礎年金2級の年金額を引き上げる方法として、基礎年金拠出期間の45年化による満額の変更が適当かどうか
・仮に基礎年金拠出期間の延長に伴い、障害基礎年金2級の年金額を引き上げる場合、(改正)施行日前に初診日がある受給者の年金額についてどのように取り扱うか
という論点です。
<事後重症の場合の支給開始時期にかかる論点>
障害認定日に法令に該当する障害の状態に該当しなかった方でも、その後病状が悪化し、法令に定める障害の状態になった状態になった時には請求日の翌月分から年金を受け取ることができます。このことを「事後重症による請求」といい、
また、障害認定日(障害の状態を定める日のことで、その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6ヶ月を過ぎた日、または1年6ヶ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日を言います)に法令に定める障害の状態にあるときは、障害認定日の翌月分から年金を受け取ることができます。このことを「障害認定日による請求」といいます。
障害年金は、障害認定日において一定の障害の状態にある場合に支給されますが、事後重症の場合は、障害の状態が悪化して障害等級に該当するに至った日の翌月ではなく、請求日の翌月から障害年金が支給されることになっています。このため、例えば請求日の1年前に障害の状態に至っていた場合でも、遡及して受給できません。
事業重症の場合でも、障害等級に該当するに至った日が診断書で確定できるのであれば、その翌月まで遡及して障害年金を支給することを認めるかどうか。
制度創設当時と比べ、デジタル技術の進展によってカルテの保存状況等に変化があるため技術的な障壁を精査し、事後重症の場合の支給開始時期を再検討する必要あり、との意見がある。
その他詳細は、厚生労働省 2024年5月13日第15回社会保障審議会年金部会
公表資料をご参照ください。